野球小僧 season16

丸坊主にして自由な時間をなくしてまで,青春をそこに注ぐことに意味がある。

棄権試合

今季の関西学生アメリカンフットボールリーグ3部で、9月9日土曜日の試合結果に「兵庫医大 1-0 大阪芸大」という記録があります。そういえば、関甲新学生野球連盟平成29年度秋季リーグ戦2部において、10月10日火曜日の試合結果に「松本大学 9-0 新潟大学」というのがありました。

アメフトは大阪芸大の棄権、野球は新潟大の棄権です。

新潟大は土曜も夕方まで授業があるのとのことで、学業優先のためだそうです。50年の部の歴史で初の棄権になったそうです。以前は運動部の学生は練習や試合優先が当然だったそうですが、今は違い、引退後のセカンドキャリアを考えれば、本当の意味で社会に通用する人間を育てないといけないと、岡田邦彦監督は決断の理由を説明しています。

昨年までは主に日曜祝日に試合があり、土曜は1~2試合だったこともあり、教員も学生も「それくらいなら」と授業を欠席していたそうですが、今季はリーグ側が競技場確保に苦心する中、全5試合が土曜になってしまいました。5日分の授業全部を欠席することは出来ず、交代で試合をしようにも、部員は約20人のため、初心者の一年生を出すと大ケガにもつながる可能性もあるため、やむなく9月の初戦と大事な実習が重なる12月の最終戦を棄権し、残り3試合に全力を尽くすことにしたそうです。公にはなっていませんが、新潟大の試合は平日開催。普通に考えれば授業がある日になります。

学生の本業は学業ですので、当たり前と言えば当たり前ですが、どう両立させるか。これは特別な大学の小さな部に限られた問題ではないと思います。神宮球場が空く平日の開催が伝統となっている東都大学野球をはじめ、週末は競技場の借用料が高いなどの事情などもあり、授業がある平日に設定されるリーグ、大会は少なくないそうです。学業と両立させたい学生は授業を受ける権利が奪われ、スポーツ優先という学生は学業への意識が遠のいてしまうことになります。

米国では大学スポーツがプロスポーツに勝るとも劣らないほど人気があります。特にアメリカンフットボールとバスケットボールの人気は絶大で、観客動員力や収益力などで他の競技を圧倒しています。大学アメリカンフットボールシーズンが始まるのが毎年9月です。12月から成績上位校によるボウルゲームが始まります。そして、アメリカンフットボールと入れ替わる形で、大学バスケットボールが始まります。公式シーズンが11月から始まり、3月から決勝トーナメントになります。このトーナメントは、全米各地のカンファレンスを勝ち抜いた68大学により約1ヶ月に渡って開催されるもので、「3月の狂気(March Madness)」とも言われるほど大変な盛り上がりです。

このトーナメントだけで、全米大学体育協会(NCAA)の全バスケットボール収入の90%以上と言われています。その収益の源泉となっているのがTV放映権ですが、2011年から14年間の放映権料として108億ドルの契約を結びました。これは1年平均約7.7億ドルとなり、MLBの年間放映権収入の約7億ドルを上回る金額になります。(ただし、MLBの7億ドルは全国放送分のみ)。これら収益の一部は大学の戦績に応じて、所属カンファレンスに分配されます。よって、強豪校が集まるカンファレンスほど多くの分配金を得ることができる仕組みになっています。

「ビッグ・イースト」カンファレンスに所属する名門コネチカット大学ハスキーズは2011年のトーナメントを制し、NCAAからの分配金を最も多く手にしました。しかし、この後、所属部員の学業成績不振からペナルティーとして奨学生枠(スカラシップ)が2つ減らされることになりました。実は同大学バスケ部は前年、新入部員勧誘の規則違反で既にスカラシップが1つ減らされており、このペナルティーにより3つの枠を失うことになりました。認められている13枠のうち3つが減らされるのは、戦力補強上大きな痛手になります。既に9人分のスカラシップ枠を使っているため(現役8選手と9月から入学する1選手)、次のシーズンで使うことができる枠は1人だけとなってしまったのです。

こうした厳しい罰則は、学生の本分である学業をおろそかにしないために設けられています。スポーツ推薦選手だからといって、スポーツだけやっていればいい、というわけではないのです。

NCAAは選手の学業成績をモニターする「アカデミック・パフォーマンス・プログラム」を設置しており、この中で学生の成績や卒業率がNCAAの定める最低ラインを下回った場合、チームに厳しい処分を科すことになっています。学業成績の責任はコーチにも求められます。例えば、ヘッドコーチの契約にバスケ部員の学業成績がNCAAの基準を下回った場合は、ヘッドコーチが10万ドルを同大学の奨学生基金に寄付する条件が盛り込まれていたりします。さらに、決勝トーナメント進出で手にしたインセンティブも没収されることになっていたりするそうです。また、NCAAは練習時間の上限なども事細かに定めており、ヘッドコーチはこうした規則を熟知、遵守し、選手が学業をおろそかにしないように配慮しながら、競技面でも最高のパフォーマンスを引き出すことが求められています。

この他にも、NCAAアメリカンフットボールの名門、南カリフォルニア大学にもスカラシップの剥奪(年間10選手枠を3年間)に加え、2年間のポストシーズンへの出場禁止といった極めて厳しい罰則を科したことがあります。南カリフォルニア大学アメリカンフットボール部は名門であり、過去11回全米チャンピオンに輝いており、米プロフットボールリーグ(NFL)にドラフト指名された選手の数は、全米の大学中トップです。33週連続で大学アメリカンフットボールランキング1位を保持したというNCAA記録も持っています。これは、現在はNFLで活躍している選手が、同大学在学中に代理人関係者から不当な金品を受け取っていたためでした。5年以上も前に所属していた選手の違反行為により、現在のチームが罰則を受けたことになります。この選手は2005年にハイズマン賞(全米大学最優秀選手賞)を受賞するなど、類まれな才能の持ち主だったため、大学側に悪徳代理人からエリート選手を守る監督責任があったと判断したようです。さらにNCAAは、この選手が先発出場するようになった2004年12月~2005年シーズン中にあげた14勝も記録上抹消しました。

これほど厳しい罰則を伴う規則が日本の学生スポーツ界には現在のところないと思います。数年前、日本のプロ野球界で大学生選手らが「栄養費」という名目で金銭を受け取っていたことが発覚しました。しかし、大学側の管理責任は問われませんでした(高校生だったら、ものすごい問題になっていたかも)。

今、日本の大学スポーツは変革を模索しています。スポーツ庁は競技を横断して統率する組織であるNCAAをモデルに、2018年度中に「日本版NCAA」の創設を予定しています。収益アップを含めた大学スポーツ振興を目指す制度設計ですが、まずは安全性の向上と学業充実への体制作りが先決と位置づけられています。

果たして、大学スポーツの在り方は変わっていくのでしょうか。